広がる がんの凍結療法(きょうの健康)
正式名称を経皮的凍結融解壊死療法と呼ぶこの治療法は、小型の腎がんに対して2011年から保険適用が開始されました。近年の研究により、肺がんや骨のがんなど、従来の手術が困難なケースでも高い治療効果が期待できることが明らかになっています。さらに、2026年3月からはさまざまながんに対して保険適用が拡大されることとなり、最新の低侵襲治療として注目を集めています。
がん治療の新しい選択肢「凍結療法」の概要
がん細胞に専用の針を刺して凍らせる凍結療法は、2026年3月から多くのがんで保険適用となりました。正式には経皮的凍結融解壊死療法といい、体外から針を刺して「凍結」と「融解」を繰り返すことで、がん細胞を物理的に壊死させる治療法です。
手術・放射線・薬物療法に続く、がん治療の第4の選択肢として期待されています。特に肺がんにおいては、転移性肺がんや再発した原発性肺がんなど、手術や放射線治療が難しいケースでも適用が検討されます。
凍結療法が検討される肺がんのケース
通常の肺がん治療では薬物療法や放射線治療が優先されますが、以下の状況では凍結療法が有効な選択肢となります。
- 薬物療法が効きにくい場合や、がんの数が少ない場合
- 体力や呼吸機能の低下により、手術による切除が困難な場合
- 過去の放射線治療の影響で、再度の照射ができない場合
- 血管や気管支に近い場所にがんがあり、他の治療ではリスクが高い場合
肺がんに対する凍結療法の具体的な手順
凍結療法は、血管造影室にて局所麻酔下で行われます。CT画像でリアルタイムに確認しながら、精密な操作で治療が進められます。
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針の設置と位置確認
CT画像で肺の様子を確認しながら、約30分かけて冷凍手術器の専用針をがん組織の適切な位置へ刺入します。 -
凍結と融解のサイクル
アルゴンガスを循環させてマイナス140度まで冷却し、がんを凍らせます。5分後、ヘリウムガスに切り替えて温度を上昇させる「融解」を行います。 -
サイクルの反復
この凍結と融解の工程を通常3回繰り返します。ガスの切り替えは針を刺したままスムーズに行うことが可能です。 -
治療完了と経過観察
アイスボールと呼ばれる氷の塊ががん全体を覆ったことを確認して終了します。治療時間は2〜3時間程度で、2〜3日の入院が必要です。
がん細胞が壊死するメカニズム
凍結療法によってがん細胞が死滅する理由は、大きく分けて2つの生物学的な作用によるものです。
| 物理的な破壊 | 細胞内で氷の結晶が成長することで、細胞膜や核、ミトコンドリアなどの器官を直接破壊します。 |
|---|---|
| 血流障害 | がんが増殖のために作った新生血管を凍結によって損傷させ、酸素や栄養の供給を遮断して壊死に追い込みます。 |
肺の組織はもともと空気が多く凍りにくい性質がありますが、1回目の凍結・融解で意図的に微細な出血を起こさせます。組織が血液で満たされることで、2回目以降は血液が冷気を伝える媒体となり、より広範囲を確実に凍結できるようになります。
肺がんにおける治療効果とリスク
臨床試験の結果、凍結療法は高い局所制御率を維持していることが示されています。一方で、肺に針を刺す治療特有の合併症についても理解しておく必要があります。
治療成績のデータ
| 転移性肺がん(3.5cm以下) | 5年局所制御率(再発なし):79.2% |
|---|---|
| 大腸がんからの肺転移 | 手術・放射線不可の症例における10年生存率:12.5% |
主なリスクと副作用
最も頻度の高い合併症は気胸(肺から空気が漏れる状態)です。全症例の約18%にみられますが、多くは軽度です。管で空気を抜く処置が必要な中等症は約11.2%で、手術が必要となるような重症例は報告されていません。
凍結療法の4つの大きなメリット
他の治療法と比較して、凍結療法には患者さんのQOL(生活の質)を維持するための優れた特徴があります。
- 呼吸機能の温存:がんをピンポイントで治療するため、治療前後で肺活量がほとんど変わらず、治療後も以前と同様の生活を送ることが可能です。
- 繰り返し治療が可能:周囲の組織へのダメージが少ないため、再発した場合でも同じ場所を何度でも治療できます。
- 身体への負担が少ない:使用する針は約1.5ミリと極めて細く、冷却による麻痺効果で痛みも抑えられます。
- 安全性と確実性:太い血管や気管支は血流や空気の流れにより凍りにくいため、それらを損傷させるリスクが低く、安全に治療が行えます。
保険適用の対象となる疾患一覧
2026年の改正により、凍結療法は腎がんだけでなく、多岐にわたる腫瘍に対して健康保険が適用されるようになりました。
| 対象となる主要ながん | 肺がん、小型腎がん(4cm以下)、肝がん |
|---|---|
| 骨・軟部腫瘍 | 悪性骨腫瘍、類骨骨腫、軟部腫瘍(四肢・胸腔内・腹腔内) |
| 骨盤内腫瘍 | 子宮がん、膀胱がん、卵巣がん |
| その他 | 腎血管筋脂肪腫 |
特に骨の腫瘍では、骨の構造を維持したままがん細胞だけを死滅させることが可能です。また、手術での摘出が難しい背骨の近くにある軟部腫瘍などにも、繰り返し行える凍結療法は適しています。
凍結療法を受けることができる医療機関
凍結療法は、日本IVR学会などの関連学会が作成した適正使用指針に基づき、専門の冷凍手術器と経験豊富な医師が在籍する施設で行われます。現在、全国の約35施設に機器が配備されています。2026年3月からの保険適用拡大に伴い、治療を受けられる医療機関は今後さらに増えることが予想されています。
当院での治療
当院ではがんに対して、AWG療法(自費)を行っています。
