「股関節の痛み」克服法〜診断・薬・手術の最新情報〜 「痛みの正体“関節唇(しん)損傷”とは」(きょうの健康)
股関節の痛み:見過ごされがちな関節唇損傷
股関節の痛みに悩む人は約500万人。最近注目される関節唇損傷という症状について説明します。
関節唇とは股関節の骨盤側のくぼみ、寛骨臼の縁をリング状に取り囲んでいる軟骨組織です。関節唇がすり減ったり、裂けたりすると引っかかりや股関節痛が生じ、悪化すると変形性股関節症になることもあります。
MRI画像診断をもとに、X線では異常を捉えにくい「関節唇損傷」の原因や治療法などを紹介します。
痛みの原因を探る:関節唇損傷とは
歩くときや立ち上がるときに、足の付け根が痛む。こうした股関節の痛みに悩む人は、全国でおよそ500万人にのぼるといわれています。股関節の痛みというと、「変形性股関節症」を思い浮かべるかもしれません。しかし近年、同じような痛みでも、変形性股関節症ではないケースがあることが分かってきました。その原因のひとつが関節唇損傷です。
なぜ見逃される?関節唇損傷
関節唇損傷は、以前から存在は知られていたものの、ここ10年ほどで整形外科の分野で注目されるようになった、比較的新しい疾患です。
- 若い人から中高年まで、幅広い年代で起こる
- 一般的な検査では見つかりにくく、痛みの原因が分からないまま放置されてしまうことも少なくない
- 放っておくと、変形性股関節症につながる可能性があることから、早めの発見が重要
症例:X線で異常なしと診断されたケース
歩くときに股関節が引っかかるような感覚や、時々の痛みを感じるようになった方がいました。
整形外科を受診し、X線検査を受けたが、「異常なし」と診断されました。
様子を見ることになったが、3か月後には歩くのも困難なほど痛みが悪化してしまいました。
改めてMRIによる詳しい検査を受けたところ、痛みの原因が関節唇損傷であることが判明しました。
股関節と関節唇の構造と役割
股関節は、太ももの大腿骨の付け根と、骨盤側の寛骨臼からなる関節で、多方向に動かせる自由度の高い構造をしています。
寛骨臼の縁を、リング状に取り巻くようについている組織が関節唇です。
関節唇は、線維軟骨と呼ばれる軟骨の一種で、大腿骨の付け根がずれないように支えたり、関節にかかる衝撃を和らげたりする役割を担っています。
関節唇が傷つくと何が起こる?症状と影響
関節唇がすり切れたり、裂けたりすると、骨同士のかみ合わせが悪くなります。
痛みが出たり、動かしたときに引っかかるような感覚や違和感を覚えることがあります。
放置すると、関節全体に負担がかかり、変形性股関節症に進行することもあります。
X線検査で関節唇損傷がわかりにくい理由
関節唇は、軟骨の一種です。
骨の状態を見るX線検査では、軟骨そのものを捉えることはできないため、異常が見つからないことがあります。
その結果、「原因不明の股関節の痛み」と診断されてしまうケースも少なくありません。
MRI検査による関節唇損傷の診断
近年では、高精度のMRIが広く普及し、股関節にも使われるようになりました。
MRIでは、関節唇の状態を詳しく映し出すことができます。
MRI画像で見る関節唇損傷
正常な関節唇は黒く写るが、傷があると水分が入り込み、白く写ることがあります。
さらに損傷が進むと、関節唇の位置がずれ、関節の中に挟まったように見えることもあります。
こうしたわずかな変化を捉えられるのがMRI検査です。
2024年改訂の「変形性股関節症診療ガイドライン」でも、精密検査としてMRIによる評価の有効性が示されています。
関節唇損傷の主な原因
関節唇損傷の原因はいくつかあります。
- 股関節を大きく動かすスポーツ:バレエダンスやサッカーなど、股関節を深く曲げたり、ひねったりする動作を繰り返す競技などでは、関節唇に強い力がかかり、傷つきやすくなります。
- 運動不足の中高年の人が、運動を急に始めた場合:筋力が落ち、体が硬くなっている状態で急激な負荷がかかると、関節にストレスが集中してしまう。運動を始める際には、筋肉をほぐすストレッチを行い、急な負担を避けることが大切。
関節唇損傷の治療法:保存療法と手術療法
治療は、大きく分けて保存療法と関節鏡手術の2つがあります。
保存療法
まず痛みを抑えて関節を動かしやすくすることを目指します。
消炎鎮痛薬の内服や外用薬を使いながら、リハビリを行います。
症状が改善しない場合には、関節内注射が選択されることもあります。
保存療法は、痛みの程度や生活状況にもよりますが、1〜3か月ほど行い、様子を見ます。
およそ7割の人で、痛みが軽くなり、日常生活の動きが楽になるとされています。
関節鏡手術
それでも症状が改善しない場合や、痛みが強くて歩けない場合、また早期の競技復帰を目指す場合には、関節鏡手術が検討されます。
関節鏡手術は、特殊な内視鏡の器具で関節内を見ながら行う手術です。
入院期間は一般的に1〜2週間が目安で、早ければ数日で退院し、その後は数か月かけてリハビリを行います。
FAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)とは?
関節唇損傷の原因のひとつとして、2024年改訂の「変形性股関節症診療ガイドライン」では、FAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)が重要視され、新たに一つの章として独立して取り上げられました。
FAIとは、骨の形に特徴があり関節唇を痛めやすいタイプの状態を指します。
正常な股関節では大腿骨の付け根が丸く、骨盤の受け皿にきれいにはまっているが、FAIでは大腿骨の付け根に出っ張りがあります。
そのため、股関節を曲げたりひねったりしたときに、その出っ張りが関節唇にぶつかります。
これを繰り返すことで、関節唇がすり切れたり裂けたりし、痛みの原因になります。
FAIの診断と治療
FAIは、X線で骨の形に特徴が見られた場合、MRIなどの精密検査を行い、関節唇損傷の有無を確認します。
治療は、関節鏡手術によって対応することができます。
関節唇を修復するとともに、出っ張っている骨を削り、形を整えます。
FAIは、子どもの頃から激しい運動を続けてきた人に見られることが多いとされていますが、はっきりとした原因はまだ分かっていません。
股関節に痛みを感じたら、専門医の受診を
股関節の痛みの原因は、ひとつではありません。
関節唇損傷のように、小さな傷が痛みのもとになっていることもあります。
年のせいと決めつけず、早めに整形外科を受診ることが大切です。
当院での対応
当院では関節唇損傷に対して、関節注射、PRP療法(自費)、運動器リハビリテーション(予約制)を行っています。
